勝手にobserver

この世はなんて儚く切ないの。そんな感じです多分。

毒ガスのにおい 1

 

 

毒ガスって どんなにおい?

 

説明出来る人は少ないと思う。

なぜなら 説明できるくらい嗅いだ人は

毒にやられてしまってるから。

 

今になってみると

姑の異変の片鱗は 

いっぱい散らばっていたのかもしれない。

 

今となっては、という過去形の話は

本当の今は 

何の役にも立たないと知った。

 

 

 

「自分の部屋は毒ガスのにおいがする。」

 

 

姑の口から飛び出たその言葉は

その時の私たちには 衝撃だった。

 

冗談なのかな?

いや

そうではない。

姑は 大真面目で訴えていた。

 

でも姑は毒ガスなんて嗅いだこと無いはずだ。

 

 

「毒ガス臭いって どんなにおい?」と聞くと

「わかんないけど、すごいにおいなんだ。」

 

「どこからガスが出てるの?」と聞くと

「うーん・・・自分からかなあ。お腹に虫がいるから・・・」

 

お腹に虫がいるというのも、

もちろん 姑の思い込みだ。

 

つい最近 大腸検査をして 

ポリープひとつない綺麗な腸だと

言われたばかりだった。

そう話しても

「だけど、いるんだよ。」と聞いてくれない。

 

「あまりにも臭いから消防に電話して

消毒してもらおうと思ったんだ。」と言う。

 

夫は 姑に

そんな電話しないでよ、と言っていた。

 

。。。消毒なら 保健所じゃないの・・・

と思ったけど、

さすがに言えなかった。

 

 

これは・・・

もしかして

友達に聞いていたあの症状かもしれない。

 

私はすぐにキッチンから

スプレー式のアルコール徐菌を取ってきて

「これは消毒だからね。これで大丈夫だよ!」

と 言いながらスプレーした。

アルコールのにおいが広がった。

 

「どうかな。嫌なにおい しなくなった?」

 

「うん・・・少し良くなった。」

 

 姑の顔色が少し明るくなった。

納得はしてなかったかもしれないが

その時はそれが精一杯だった。

 

 

次の休日。

 

夫と二人で

姑の部屋用にスプレー式消臭剤等を

買いに出かけた。

ついでにランチ。

 

すると姑から携帯に電話がかかってきた。

 

毒ガスのにおいがすごくて、もうだめだ という内容。

 

なんて言えばいい?

実際には無い毒ガスを どう回避させればいい?

 

 

私には

「窓を開けて。なるべく早く帰るからね。」

くらいしか 言えなかった。

 

 

 

 

 

あの角を曲がると 我が家。

 

 

 

その角から、

消防士さん登場。

 

 

 

姑は、我慢出来ずに呼んでしまったのだ。

 

 

 

家の全部屋に入り、

ガス探知機で調べて『ガス漏れ異常なし』。

 

キッチンのガスの元栓も止めてくれたと言う。

 

 

申し訳ないやら

恥ずかしいやら

入り混じった気持ちで

消防士さん達に 謝った。

 

 

家に入ると

姑は

 

 

 

自分の部屋で横になっていた。

 

 

 

横になりながら

 

「今は毒ガスのにおいはしない。」

「さっきは もの凄かったんだけどなあ。」

「あの人達に、お金払わなくていいんだって。」

 

ポツリポツリ そんな事を言っていたように思う。

 

 

 

私は 留守中に部屋に入られたのがショックだった。

 

でも姑を怒るわけにもいかない。

 

夫とふたりで 姑の部屋で少し話を聞き、

姑が落ち着いたのを見て、

今日買ってきたばかりの

『対・毒ガスグッズ』(と思わせるもの)を姑に渡し、

キッチンに戻って ひとり落ち込んでいた。